7:スペインラムのダブルライダースジャケット


最高級のスペインラムを使用したライダースジャケットを作ってみた。よくあるライダースのパターンとは異なり、テーラードジャケットに用いられるパターンを参考にカッティングした。なので、ライダースと言いながらバイクに乗るのには向いてないかもしれない。ディテールにも拘っているが、それでいて一見するとシンプルな見た目。デニムよりスラックスとの相性が良いライダースを目指した。

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ライダースジャケットの筋書き

全体のポイント
  • 「逃げる」フロント
  • 少し長めの裾
  • ベルトレス
  • 腰ヨークのないシンプルな後ろ姿
  • ファスナー比翼

まず、ファスナーを開けたときのバランスは最も気を付けている。本来はNGなのだが、若干「逃げる」感じのパターンにしてみた。また、通常のライダースであれば腰よりも上に裾があるが、今回はベルトが隠れるぐらいの着丈で製作した。

ダブルブレストのライダースといえば男臭いイメージが多少あるが、ちょっと着丈を長くするだけで上品な印象に変わる。ベルトレスなので丈と相まっていわゆるロンジャン(ライダースのロンドン型)に近い形。そして、後ろ身頃は後ろ中心の切り替えと肩ダーツのみのシンプルな構成にしてみた。後ろから見たらライダースには見えないかもしれない。あとで詳しく見ていくが、ファスナーを閉めたときは縫製を工夫することでファスナーが見えないようにしている。

ディテールの型録

ジャケットの顔

ラペルはジャケットの顔ともいえる部分で、このデザイン次第で印象がガラッと変わる。Vゾーンはタイトにして、少しノッチを下げることでバランスをとった。

玉縁のファスナー

通常であれば生地と生地の間にファスナーを挟み込んで縫うのだが、このジャケットでは両玉縁ポケットの要領でファスナーを取り付けた。ラペルの内側にファスナーがくることで比翼にもなるし、デザイン上のアクセントにもなる。後述するが、ファスナーの下にはシルクテープを縫い付けている。シルクは滑りも良く、何より光沢が美しい。

ずらしたスナップボタン

スナップボタンはあえてずらしている。あまり使われることのない、ジャケットのラペルに付いているフラワーホールのようなイメージかな。パターン上でラペルの折り返り分のゆとりを追加してあり、ボタンで抑えなくても自然にラペルが返るので問題はない。そもそもラペルのスナップボタンはバイクに乗っているとき、風でラペルがなびかないようにと付けられたものだと解釈しているが実際はどうなのだろうか。

ライダースに月腰を

上衿には月腰を追加した。ウールのジャケットだと蒸気でいせ込むことで首回りの立体感を出せるが、レザーの場合はそう簡単にいせられない。そこで便利なのが、この月腰である。これを入れるだけで首回りのフィット感が増す。また、衿を立てた時の支えにもなって一石二鳥。

くびれを形作るもの

フィレンツェ風サイドダーツ

このジャケットは前身頃と後ろ身頃の2面で構成されている。現代では細腹が付いた3面構成が主流だ。今回はオーダーメイドのジャケットによく見られる仕様で、袖下の辺りからポケットの辺りまで1本のダーツが入っている。このダーツを追加することにより、胸から腰にかけてなだらかなくびれが生まれる。見出しでフィレンツェ風と言ったのは、フィレンツェで仕立てられるスーツは2面構成でサイドダーツ1本のみというスタイルが多いからである(+カッタウェイのフロント)。フロントに縫い目が表れないエレガントなデザインとも言えそう。

ヨークの代わりに肩ダーツ

肩甲骨の頂点から垂直に1本のダーツを入れている。肩周りのゆとりはダーツ分をヨークで取ったり、他の箇所に分散させることで確保できる。しかし、なんだかんだ言っても結局シンプルなダーツが綺麗なシルエットを生み出すと思う。

肩甲骨を頂点としてどこにダーツを繋げるかはデザイン次第だ。今回はヨークの延長線上にあったけど途中で消失してしまったイメージで入れてみた。結果的に某ブランドのデザインっぽくなっちゃった。

ririのイカしたファスナー

ファスナーにはriri製のファスナーを採用した。ririとは80年以上の歴史があるスイスの老舗メーカーである。日本だとYKKが圧倒的に有名なので、あまり目にする機会はないかもしれない。実際にYKKと比べると高価でなかなか売っていない。しかし正直に言えば、YKKの方が丈夫で滑りもいい(何より安い)。でも、ririのファスナーにはなんとも言えない雰囲気があるのも事実だ。個人的には多少使いにくくてもririのファスナーを愛用している。

ファスナーのスペック
  • ムシ幅(布テープなどに縫いつけられた歯):6mm
  • 色:ガンメタル
  • スライダー:Kタイプ(丸くくり抜かれたもの)

色がちょっと剥げていて銅色が見えているが、それが渋くてGood。

きらりと輝くシルクテープ

ファスナーの下の部分にはシルクテープ(巻きで売っているタイプ)を縫い付けている。ファスナーの周辺は重なりが多く、できるだけ薄くしなければなりません。そこで候補に上がったのがこのシルクテープと裏布、スレキである。

耐久性を考えるとスレキでも良かったのだが、せっかく最高級のラムレザーが手に入ったということもあり、最も高級感の溢れるシルクテープを選んだ。あえてムシの先端から3mmぐらい出すことでシルク特有の光沢がアクセントになっている。

ライダース×雨降り袖

ライダースでは珍しい雨降り袖にしてみた。雨降り袖とは袖山を低くして袖のいせ分量を多くしつつ、縫い代を身頃側に倒すことによって生まれるシワのある袖のことである。一般のセットインスリーブよりも運動性に優れている。また、肩パッドを省いているので軽い肩周りが特徴でもある。

縫いながら思ったのだが、皮革って意外といせられるものなんだね。パターン上では大丈夫か心配だったが、逆にもう少しいせ分量を増やしても問題なかった。ちなみに、レザーはいせ分量を縮めるためのぐし縫いができない。冗談みたいだが代わりにホチキスを使い、直接いせを入れていく。雨降り袖はナポリで作られたジャケットにおけるディテールとして有名。Raffanielloさんによると現地ではそうでもないらしいが。

裏勝りな袖裏

袖裏にはシルク100%の裏地(オカダヤで購入)を使用している。滑りがよく、どんなインナーの生地でもスルッといく。また、脇の下にあるのは脇刺しと呼ばれる刺繍の一種である。これは裏地がすり切れるのを予防する意味があると言われているが効果のほどは?。装飾的な意味合いが強い。

手ぶらで歩けるポケット過多

このジャケットでは合計10個のポケットを配置している。ポケットの数としては十分すぎる量だが、やっぱりレザージャケットは手ぶらで歩くのがカッコいいと思っているのでそうした。カバンを肩に掛けるとレザーが痛むのが目に浮かぶぜ。

ちょっと多いが、それぞれ特色あるポケットなので1つずつ説明していく。

手を突っ込むためのポケット

手を入れて温めるためのポケット(ハンドウォーム)。通常のライダースの場合は丈が短いので、パンツの方に手を突っ込むことが多いかと思う。しかし、今回は丈が多少長いのでジャケットに手を入れる設定に。具体的には手を入れやすいよう角度と長さに拘った。また、ポケット幅は細めに設定している。

外からは見えない箇所だが、ポケットの裏地には起毛されたスレキを使用した。フカフカして暖かいのが特徴である。袋布は手の大きい人でも問題ないように、深めの設計にしている(裾まで続く)。

キャッシュレス時代にコインポケットを

通常、上前身頃にコインポケットは付くことが多いのだが、このジャケットでは下前身頃に配置した。ファスナーを閉めた時にポケットが隠れるので、よりミニマルに見えるかと。また、フラップの裏側は縫い代をカットして千鳥がけで纏っている。そうすることで革の厚みを抑えてフラップが開きやすくなる。ポケット自体は片玉縁にした。皮革は布地とは違う仕立て方だが、比較的簡単に縫えるのでオススメのポケットである。

忍びやかなポケット

ポケットは雄弁に語る。これはファスナーを利用した隠しポケットだ。あまり使うことはないとは思うが、ロマン枠ということでね。作り方はシームポケットに似ている。ポイントはポケットの幅で、ラペル止まりからファスナー止まりの直前まで開くようにしてある。パスポートなどの貴重品を入れるのに重宝しそうかも。

贅沢なお台場仕立て

最近のテーラードジャケットではよく見られるお台場仕立てにしてみた。しかし、レザージャケットではほとんどこういった仕立て方はされない。それはなぜか。そう、通常の見返しに比べて生地を2倍近く使うからだ。特にレザーの場合は生地単価も高く、個体差があるので上手くインレイできるとは限らない。裁断する段階でもし生地が足りなければ通常の見返しにするつもりだった(接ぐと厚みが出るからね)。幸運にも生地の用尺ピタリで贅沢な使い方ができた。

諸々のインサイドポケット

時代遅れのチケットポケット

右見返しの3つあるポケットのうち、1番上にあるのがチケットポケットと呼ばれるものである。チケットではなくICカードが主流になった今ではさほど需要はないかもしれない。何を入れるかは自由だが、個人的には名刺入れにちょうど良いと思う。ポケット口はもみ玉縁と呼ばれる手法で作った。

分かる人には分かる剣玉縁ポケット

左見返し上のポケットは剣玉縁と呼ばれるポケットである。両端が尖っているのが剣みたいでしょ。土台の縫い代を割らなくてもいいので、分厚い生地に向いた仕立て方かも。これは多分そうとうマニアックな服でないとお目にかかれないポケットの一つだと思う。というのも、機械ではできない方法であり、綺麗な三角形を作るのには高い技術力が要るからだ。しかも、ほとんど両玉縁ポケットと見た目は変わらないからね。

シガーポケット改め、スマホポケット

本来はタバコを入れるためのポケットだが、禁煙化が進んでいる昨今ではその意味も薄れてきている。現代ではスマートフォンを入れたりする場合が多いかも。

飾り気のない裾

ライダースは後ろ身頃の裾に腰ヨークが付くものが多いが、今回は採用せずに裏地を裾まで延長している。また、裏地にはオーダーメイドの紳士服に用いられることの多いキュプラとポリエステルの交織生地を採用した。

サイズや生地について

肩幅44cm
身幅49cm
着丈77cm
袖丈63cm
皮革について

最高級のスペインラムを使用。生地代だけで7、8万円はした。きめ細かく非常に柔らかい素材なので長く愛用できそう。

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