今回製作したのはオーソドックスなダークスーツです。ジャケットとスラックスで分けて紹介していきます。普段は服の基本をリノベートすることで自身のデザインへと昇華させますが、今回はその前の段階でデザインを考えました。
ジャケットの骨組み。
- シングルブレスト
- 2つボタン
- ノッチトラペル
- バルカポケット(胸ポケットの一種)
- チェンジポケット
- センターベント
- 本あき(本切羽)
ジャケットとは面白いもので、上記の組み合わせを変えるだけで数え切れないほどの選択肢が生まれます。そして、あらかじめ縫い方やパターンが確立されている、目に見える部分のデザインを変えることは容易です。
重要なのはディテールの名称ではなく、サイズ感とバランスだと思います。ノッチトラペルの太さを例にとると、細いほど若々しいイメージで、太ければクラシックな感じがします。そのバランスが難しいのですが。。
あくまでオーソドックスなスーツになるほど時代感が重要になるので、逆説的ですがヘテロドックスな服と言えるのではないでしょうか。
意味のあるシワ。
肩甲骨の辺りに見えるシワは良い洋服を語る上で重要な要素です。
市販の服(吊るし)であればシワがないのが普通です。なので、人間の体に平面な箇所はないので服を着れば当然シワが発生します。しかし、ある技法を使って人間の立体に合わせて服を作れば下記のような状態になります。
- ハンガーに掛けている時:シワがある
- 着用時:シワがない
これが理想です。
しかし、2Dの布を3Dにすることは技術的にかなり難しく、洋裁の永遠のテーマでもあります。その3Dにする技術で最も高度な技術がくせとりと呼ばれるものです(ウール限定)。
簡単にいうと、アイロンの熱と蒸気を使い布地を変えてしまう魔法のような技です。私はくせとりを本格的に習ったことがなく、完全に独学ですが何度練習しても苦戦する最もやりがいのある行程だと思います。
くせとりは背中だけでなく、脇や腰、衿など立体的な箇所は全て行います。なので、当然のことですが膨大な時間と労力が必要なので、大量生産品には見られない仕様です。
ディテールのリスト。
水牛とウールは最高の組み合わせ。

たびたびこのブログでお話ししていることですが、ボタンホールは手縫いで行い、縫い止りにはかんぬき止めを施しています。また、ボタンの素材は水牛(角)にしました。スーツに合うボタンNo. 1は水牛で異論はないのでは。
ところで、最近ではフェイクボタンの精度も恐ろしいほどに上がっているゆえ、格付けチェックではないですが本物と偽物を間違えそうになることもあります。
本物を見分けるコツは天然素材ゆえの傷やムラを確かめることです。偽物はちょっと綺麗すぎます(曖昧ですが何となく分かるはずです)。本物は良い意味で綺麗ではないです。
オーソドックスなポケットたち。
小銭を入れるための「チェンジポケット」。

腰ポケットにはチェンジポケットを付けてみました。イギリスのスーツによく見られるポケットです。最近のスーツでは物を入れられないフェイクポケットもありますが、これは実際に使うこともできます。
また、実用の面だけでなく脚を長く見せる視覚効果もあるそうですが、真偽のほどは定かではありません。。
あると嬉しい「チケットポケット」。

こちらは右前身頃の内ポケットになります。
一番上の細いポケットはチケットポケット(テケ)と呼ばれるものです。昔は切符などを入れるのに重宝したそうですが、現代ではあってもなくても困らないポケット選手権があれば確実に入賞するポケットだと思います。
ただ、安定感があり中のものを取り出し易いので、工夫次第では最も便利なポケットに化ける可能性を秘めています。時代の変化とともに、ポケットですら変わらなければならないのかもしれません。
通常であればチケットポケットは左身頃に付きますが、珍しい左利き用として右身頃に付けてみました(私が左利きだからというのもあります)。
時代の流れと共にある「シガーポケット」。

こちらはシガー(タバコ)ポケットと呼ばれているものです。ただ、それは昔の名残で現代社会の禁煙化の波の中、上記のチケットポケットとともに時代遅れになりつつある名称でしょう。
とは言え、このポケットは個人的には最も使い勝手が良いと思っています。特にスマートフォンの取り出しには便利。
絶滅危惧種の「剣玉縁ポケット」。

左胸だけフラップをつけました。どうしても落としたくないもの(パスポートなど)を入れるのに重宝します。また、ポケットの仕立ては剣玉縁と呼ばれるマニアックな手法で行いました。個人的に大好きな仕立て方です。
- 口布1枚で出来ることによるパターンの簡略化
- 機械化できないので仕立て服にしかみられない
- 単純に形がカワイイ
また、内ポケットに共通することですが、物が入れやすいようにスラント(斜め)気味にポケットを配置しました。
見えない部分が大事。
接着芯+αのハイブリッド。

このジャケットの芯は主に接着芯を使用してます。
接着芯は毛芯と比べて立体感が出しにくいのが難点と言われています。しかし、ラバン馬やプレスボールの上でしつけをしつつ、アイロン操作の後に星止めで止め付けることにより可能な限りの立体感を出しました。
それに加え、胸部分だけはバス毛芯を使用して張りを持たせています。
手作りの肩パッド。

肩パッドは自作しました。ハ刺しと呼ばれる方法で、手で丸みを持たせつつ縫い付けていきます。市販のものよりも肩へのハマり方が良いのが特徴。
サイズについて。
肩幅 | 42cm |
身幅 | 48cm |
着丈 | 72cm |
袖丈 | 61cm |
- 1点もの
- ユーズド
- 表地:毛100%
- 裏地:経糸 ポリエステル100%
緯糸 キュプラ100%
不明点がありましたら、お問い合わせフォームまでお気軽にどうぞ!