今回紹介していくのは私が初めて買ったマルジェラの商品である「ジャーマントレーナー」についてです。
2013年、私が高校3年生のときに買ったので8年間履いてきたことになりますね。。大体の靴の寿命は3年と言われてますから、そう考えると長生き?と言っていいかもしれません。5年ぐらいはほぼ毎日履いてたのでクタクタです。
そこまで長い間、大事にしてきたのには2つ理由があります。
まず1つ目はスニーカーにしては値段が高いことです。一般的なスニーカーだと1万円ほどではないでしょうか?しかし、この靴は約43,000円しました。高校生にしては大金です。私はあまりお金を使わないタイプだったので貯金から下ろしましたが代引きのときは手が震えました(田舎なので販売店がなかった)。やはり、身銭を切り詰めて買ったものは自然と大切に扱いますよね。
ちなみにマルジェラ好きは知ってると思いますが、現在発売されている似たようなモデルだと7、8万円はします。なので、値上がりする前に買えたことはラッキーだったかもしれません。
2つ目の理由は、履けば履くほどカッコよくなっていく点です。最近はそうでもないかもしれないけど、マルジェラというブランドを語るときにエイジングの話は欠かせません。
このジャーマントレーナーはその代表的な存在で、あえて汚れやすいスエードを用いたり、履き込むうちに欠けたりするペンキを使うことで新品とはまた違った、履いている人にしか出せない味をプロデュースしてくれます。
側面に穴が空きそうな、ソールには穴が空いたけどシューグーで補強した今の状態が1番好きかもしれません。
さて、思い出話はここまでにしておきましょう。このスニーカーは歴史背景やディテールが面白いのでそちらに焦点を当てた話を書いていきます。
そもそもジャーマントレーナーとは。

こちらが届いて開けて新品の香りのするままに撮影した1枚です。
ここからどのようにエイジングしていくのかは次の章で触れるとして、そもそも「ジャーマントレーナー」とは何ぞや?って思っている人も多いのではないでしょうか。それもそのはずで、元は中田商店に置いてるような非常にマニアックな靴でした。
しかし、マルジェラが発掘し現代的なプロダクトとして再構成(という名のそのまま)することで生まれ変わったという歴史があります。
話を戻しますと、ジャーマントレーナーは1970年から1980年代の西ドイツ軍にて、トレーニングシューズとして正式に採用されていたものです。今でもヤフオクとかにオリジナルが出品されていることもありますね。
うろ覚えだけど、白と黒が屋内用でネイビーが屋外用だったと思います。なのでソールが体育館シューズ?っぽくないですか?この色使いの感覚は今にないものを感じます。
つまり、元は軍用だった装飾性もない無骨な靴がマルジェラの手によって現代に蘇ったというわけです。
私のくたびれたジャーマントレーナー。
いかがでしょうか。個人的には最高に味が出ていると思います。ところどころ、カビが生えていたりで汚くもあるんですが、カビ=マルジェラということでこれも一種のデザインだと脳に思い込ませています。
靴紐がないのは後で触れますが、あえてこうしています。
そして、このスニーカーの最も特筆すべきデザインはジャクソンポロックよろしく様々な色のペンキで彩られたアッパーに他なりません。たぶん生身の人間が一足ずつアクションペインティングしているのでしょう。
当然、同じ柄は1つとしてないわけでオリジナリティを求める人にとってはこれ以上ないスニーカーと言えます。
ツボを押さえたディテールたち。
異なるソールの反り具合。
外側 内側
こういった側面の画像はあまり見ないと思いますが、私が重視する点でもあるので載せてみました。
まず気づくことは左右のソールの反り具合が異なるということです。人間は左右で微妙に歩幅が異なるそうで、8年も履いているためにその特徴がもろに出てしまっています。かかとの減り具合も違うし、自らのアンバランスさを実感した次第です。
手間のかかるバルカナイズ製法。

こちらがソールの画像になります。
かかとの部分が白く補強されていますが、これはシューグーです。恐らくですが、マルジェラのジャーマントレーナーを履いていて最初にガタがくるのはこの部分だと思います。穴が空くというよりは切れるんですよね。そのまま放置しておくと石が挟まったり、浸水してきたりで困るので補強することをオススメします。
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この靴は2012AWのモデルなのでソールに印字がないですが、現行モデルですとマルジェラのカレンダータグが型押しされています。さらに古いモデルでは「BW-Sport」の表記がされていますね。最初期のものだとPUMAやadidasのロゴもあるようです(軍用にその2社が卸していたので)。
雨が降っていても滑りにくく、実用性に富んでいます。もう少し耐久性があると嬉しいけどゴムだから仕方ないよね。
ちなみにソールは「バルカナイズ製法」によって作られています。バルカナイズ製法とは、硫黄を加えたゴム底と靴本体を接着し、釜にいれ熱と圧力をかけ圧着する製法のことです。歴史は長く、1839年にアメリカの発明家チャールズ・グッドイヤーが発明した、まさに「スニーカーの最も基本的な作り方」と言えます。
接着剤を使用したスニーカーよりもしなやかで屈曲運動に強く、加水分解などの経年劣化にも強いです。逆にソールの交換はできないので上述したような修理方法になります。
ベロのカレンダータグ。
右ベロ 左ベロ
ベロに縫い付けられているマルジェラを象徴するカレンダータグですが、ちょっと変わった素材使いがされています。左ベロのタグは銀面(ツルツル)が使われているのに対して右ベロでは床面(ザラザラ)が使われています。月日が経つにつれ右ベロの方は型押しされた数字が完全に消えてしまいました。左ベロの方はうっすらと残っています(元から薄め)。
購入ページでは解説されてないし、ネットで調べても誰も触れてないから、ただ単に間違いかもと思ったけどヒールの素材使いも同じようにされているので、あえてこうしていることは間違いないと思います。
私は他にもジャーマントレーナーを所有しているのですがこのような仕様ではないので2012AW特有のディテールです。遊び心というか、人間の目線と靴との距離を考えたら誰も気がつかなさそうなディテールだけど好きだなぁ。
一応カレンダータグについて触れておくとジャーマントレーナーは「女性と男性のための靴のコレクション」を意味する22ラインに所属します。そして、そのカレンダーの下にあるブランドロゴ、そこには「Maison Martin Margiela」と記載されていますが、これは2014年までの名称で2015年からは「Maison Margiela」になっています。個人的には前者の製品の方が好きです。
異なる素材使いのヒール。

前項で述べたとおり、異なる素材使いがされています。ベロのカレンダータグとは左右逆ってところがニクイねぇ。。
バックステイには定番の糸かけがされていますが、左足はほつれてしまいました。これはこれでいい感じです。引っ張っても抜けないけど、どんな構造をしているんだろう。
紐なしで履くためのゴム。
この靴の地味に良いところはベロにゴムが縫い付けられており、靴紐なしでも履ける点です。いちいち靴紐を緩めたり、締めたりする手間が省けるのは大きいと思います。しかもちょうど良いフィット感で、長年履いていてもゴムが伸びて履き心地が緩くなることもありません。
そして、このゴムを縫い付けるステッチがサイドに入ったラインに沿っているのって地味に凄くないですか?オリジナルは当然ゴムが入ってないですがこのラインはあるわけで、まさにゴムを入れるためにあるようなデザインに思えます。そもそもこのラインって単にデザイン上のアクセントなのかな?それともホールド感を高めるため?
余談ですが、私はあえて靴紐をつけたまま1年ほど履きました。というのも、せっかくエイジングを楽しむのなら靴紐があった形跡を残したかったからです。ベロの画像を見ていただけるとわかると思いますが、若干黒ずんでいるのがその跡になりますね。
マルジェラのレプリカについて。

汚い画像で申し訳ありません。マルジェラにはレプリカというラインがあります。1994年よりメンズとウィメンズの両方で展開されており、ヴィンテージの服やアクセサリーをマルジェラによる解釈で具現化したものです。
REPLICA
REPRODUCTION OF FOUND GAERMENTS OF VARYING SOURCES AND PERIODS.
Style description: Men’s sports shoes
Originally: Lambskin and calf-split
Provenance: Austria
Period: 70’s
上記がレプリカの内容になります。ジャーマントレーナーを販売している「REPRODUCTION OF FOUND」というブランドがありますが、この文言から取ったのだと思われます。
ここで触れておきたいのは2点。OriginallyとProvenance(起源)です。
Originallyで記載されているLambskin and calf-split。Lambskinとは生後1年未満の仔羊のなめし革で、柔らかくキメの細かさが特徴です。革の中では特に高級で、ジャケットに使われることが多いですね。私も以前製作したライダースにラムを使用しました。
そして、calf-splitとは仔牛の革を加工した床革のことです。天然皮革の牛革は非常に厚みがあり扱いにくいのでそのままでは使えません。そこで機械に入れて革の厚みを均一にするわけです。
そのそぎ落とされた革の裏部分を床革といい、繊維の強度が弱いためポリウレタン加工などを施し強度を高めたものがスプリットレザーとなります。本来であれば床革は本革(銀面つき)のおまけみたいなもので、捨てられる運命にあったものの生まれ変わりです。
そんな、革の中でも高価なラムと安価なスプリットレザーの組み合わせがなんとも面白い。ただ、カーフは牛革の中でも最高級なのでより複雑な関係になっています。
次にProvenance。ジャーマントレーナーと言うぐらいだからドイツが起源かと思いきや、オーストリアと記載されています。その理由は当時ジャーマントレーナーを生産していたプーマのシューズ製造工場がオーストリアにあったからだと言われていますね。
生産国までよく調べたなぁと感心しました。しかし、そう考えると現代のProvenanceは中国ばっかりになっちゃうんじゃないかと心配です。
履いてみた感じ。

履いてみるとこんな感じです。デニムとの相性が抜群!

軽い登山にも使えます。
軽く書くつもりがけっこう長くなっちゃいましたね。でも、長年履いている靴だからこそ愛着があるし、自分の着るものに対してぐらいは詳しくありたいと思っています。
他にも違うデザインのジャーマントレーナーを持っているので、記事にする予定です。とにかく、一度この靴を履くと良すぎて他の靴じゃ満足できなくなる恐れがあるので注意が必要になります。
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