10:ミニマルなブラックスーツ(ジャケット編)

今回は毛芯を使ったスーツを仕立てた。この記事ではジャケットの方について書き留めていく。

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毛芯仕立てのミニマルなスーツ

上の画像がジャケットの全体像になる。装飾の全くない、ミニマルな雰囲気に仕上げた。

省いた箇所
  • ラペル、衿
  • フロントポケット
  • 後ろ身頃の縫い目
  • フロントのボタンホール
  • 袖ボタン
  • ベント

ただ、ミニマルにしたぶん別の箇所をマキシマムにするというのが私のデザイン哲学で、見えない部分にこだわりを詰め込んでいる。

今回のポイント
  • 前端
  • 比翼ボタン
  • 内ポケット
  • 袖裏、クンニョ
  • 脇刺し

上記のディテールは表に出ない、非常に地味な部分ではあるがジャケット全体の格を上げてくれると思う。それでは、画像と合わせて説明していこう。

地味だけどスゴいディテールたち

ラペル≠ジャケットの顔

ノーカラージャケットは通常のジャケットに比べ、前端がより際立つデザインだと思っている。よくラペルはジャケットの顔と言われるが、その顔がない訳だから前端にデザインの重点を置かなければならない。市販のジャケットの縫製は全てミシンでステッチが縫われているが、このジャケットではステッチの部分は全て手縫いで行った。ミシンは時間の短縮が可能なので大量生産に向いているが、一方で生地が持つ柔らかさや個性を殺してしまう。

上の画像を見てもらえれば分かると思うが、端のギリギリに星止め(・・・のようなステッチ)をしていくのでプクッとしている。できるだけ生地の持つ個性を生かしてあげることがより良い服作りに必要だと私は思う。

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首に馴染む衿みつ

衿の部分にはカラークロスを当てている。このカラークロスはバイアスなので首の曲線によくなじむ。通常であれば衿の裏に隠れる布だが、表に出しても一種のアクセントとして面白い。

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見えない部分こそ大事

フロントはボタンホールが表から見えない比翼仕立てにしてみた。見えないけれど、見える仕立てよりも手間が掛かるのよね。不思議なものだが洋裁は基本そう。そして、比翼には様々な方法がある。本に載っている縫い方も選択肢にあったが、できるだけ薄く、そして個性的な比翼を考えた結果、もみ玉縁を利用した形になった。

もみ玉縁と松葉カンヌキは最高のパートナー

もみ玉縁ポケットが2つ並んでいて、下の方が比翼になる。上はポケットになっていて物を入れやすいであろう場所に設置した。斜めになっているので便利だと思う。そして、赤い糸で刺繍されているのは松葉止め(松葉カンヌキ)というものだ。もうほとんど廃れてしまったような技法かもしれない。基本的にもみ玉縁ポケットと松葉カンヌキはセットで登場することが多い。なぜかは分からないけど。

水牛の風格

ボタンは20mmの本水牛ボタンを使用した。艶消し加工がされているので上品でヴィンテージな風合いがある。下のジャケットと同じボタン(大きさは違うが)。

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こだわりの詰まった内ポケット

内ポケットは外から見えないが、こだわりを詰め込めるので好きだ。ペンポケットなどは付けずに左右1個ずつのシンプルな構成となっている。そして、一般的な両玉縁ポケットではなく、剣玉縁ポケットを採用した。また、フラップはアシンメトリーに留めやすく設計してある。

ボタンはいつも通りの水牛。水牛ボタンの中ではベージュに近い色が希少で、黒や茶色に比べて価格も上がる。それだけに人工のボタンには出せない風合いを最も感じる色とも言えそうだね。

理由があるデザイン

袖裏(袖の裏地)は一般的に胴の裏地に比べて分厚い。恐らく、力が掛かりやすいので頑丈に作っているのだろう。また、縞が入った物が多い。これは恐らく胴の裏地と見間違えないようにするためだと考えられる。紳士物の服を作っているとこのような「なぜ」が生まれてくるが、必ず理由があるので考えてみると面白い。このジャケットの裏地はキュプラ100%の朱子織(サテン)で非常に滑りもよく高級感がある。

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もし服を作っている人であれば、上記の袖裏がオススメ。ただ、注意しないといけないのは生地幅が53cmしかないので、詰めて裁断しないと生地が足りなくなってしまう。

知る人ぞ知る「クンニョ」

服作りを長年していても知らない人が多いのではないかと思われるディテールがこれ。私も学校では聞いたこともなくて独学するうちに見つけた。上の画像の袖裏から伸びた台形の布がクンニョと呼ばれるものだ。現在ではイタリアのある地方を除いて、完全に廃れてしまった技法である。また、大昔の古着(約1930年代以前)にも見られる(そこまで古い古着を買ったことはないが)。

もちろん、ただのデザインではなく意味があってこのようなことをしている訳だ。見えないがこの布の下は切り込みが入っていて肩が前に出やすいような処理がされている。しかし、切り込みを入れるだけでは肩が前に出ている感じはあまりしない。もしかするとそれ以外にも処理がされているはずが、いかんせん資料が少ないので実験を続けるしか理解を深めることはできない。昔の服には高確率でこの処理がされているということは何かしらの明確な効果があるはずだけど。以下は参考にしたクンニョの記事。

脇刺しは腕の見せどころ

脇刺しは前述したクンニョよりも市民権を得ていると思うのだがどうだろうか。脇の下はジャケットの中でも最も破けやすい箇所の一つだ。そこで昔のテーラーが考え出した技法がこの脇刺しである。ただ、刺繍はミシンで縫っていく訳だが当然とても硬くなる。そのせいで、余計に摩擦係数が高まり破けやすくなると思うのは私だけだろうか。

装飾的な要素が強いので個性的なジャケットを望んでいる方にはいいかもしれない(表からは見えないけどね)。聞くところによるとテーラー(店)ごとに独自の脇刺しのスタイルがあるそうで調べてみると面白そう。

使用した生地について

マーティンソンのVISARUNO

今回スーツに使用した生地は英国の名門マーティンソン社が日本向けに作った生地「VISARUNO」

マーティンソン社とは?

1859年にウエスト・ヨークシャーのハッダスフィールドで創業した老舗羊毛服地メーカー。創業当初からの英国らしいヘビーウエイトな服地を今も頑なに生産する、伝統を重んじる名門として名を馳せている。同社の登録商標であるFresco(フレスコ)という名を冠した生地は、繊細な糸を使用する現在の服地に比べ、無骨なまでにしっかりとした印象ですが英国らしい服地を愛好する人々にとっては憧れのアイテムとなっている。これをもとに1900年代初頭にはハイツイストが考案され、当時の画期的な春夏用の服地となった。そんな450g/mもあるヘビーウエイトな生地を復刻したり、フレスコ同様に肉厚で綾目の立たない紡毛のフラノなど、今日も歴史の重みを感じさせるコレクションを展開している。

生地の色はほぼ黒。正確には黒ではないが何とも形容しがたい色なのでほぼ黒と言ってもいいと思う。紺・こげ茶・黒をミックスしたようなイメージの色かな。そして、生地のデザインは、ストライプ。ストライプでも定番系のハッキリした物ではなくコントラストを極端にまで控えめにしたデザインストライプ。

最後に、この生地は日本の大手アパレル流通会社用に英国で作られた生地である。そのため生地としては一般に流通していないのでかなりレアだ。繊維組成はウール100%

甲州織の先染め裏地

裏地は山梨県富士吉田市にて富士山の湧き水で糸を染め上げた、甲州織という伝統的な織物を使用した。これは私の一押しの裏地でよく使っている。

繊維組成
  • 経糸:シルパール(ポリエステル)
  • 緯糸:ベンベルグ(キュプラ)

経糸と緯糸は異なる繊維組成だが、表に出るキュプラは非常に肌触りが良いのが特徴である。そして、強度に優れたポリエステルが耐久性を後押しする合理的な交織構成になっている。

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写真はないけど毛芯仕立て

このジャケットはオール毛芯仕立てである。残念ながら写真が消えてしまい、分解するのでなければお見せできないが明らかに接着芯で仕立てられたジャケットとは異なる。毛芯とバス芯の二重構造である。あと、自作の肩パッドも使用した。

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サイズについて

肩幅42cm
身幅49cm
着丈72cm
袖丈64cm

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