#12:ミニマルなストライプスーツ(ジャケット編)

今回、紹介していくのはジャケットである。前回のスーツとコンセプトはほぼ同じでミニマリズムがテーマとなっている。極力必要ないと思ったディテールは排除した。

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ミニマルが生みだす違和感

ご覧のとおり簡素なデザインに仕立てた。ディテールを減らしてみて分かったことだが、ミニマルな服はデコラティブな服と同等か又はそれ以上に服自体の存在感が増すということだ。恐らく基準となる常識的な服の形態に慣れているため、その差を以って違和感として感じるのだと思う。

最近のファッションを見れば一目瞭然だが、この「違和感」というのが大きなテーマである。左右非対称だったり、異なる素材を用いてみたりといったシュルレアリスムでいうデペイズマン的な手法がよく見られる。このスーツも本来のスーツを見慣れている人であれば、いくぶん奇妙な感覚を覚えるだろうと思う。とはいえ技法は伝統的な毛芯仕立てを踏襲しており、その中で肩パッドを省き身頃の芯を延長してその代わりにするなど実験的な方法を用いている。

ディテールをミニマイズする

カミソリのような前端

ジャケットの前端はノーカラージャケットにおいて重要なアクセントになり得るものだと思う。前回のジャケット同様にミシンで縫い合わせるのではなく、前身頃と見返しの縫い代を折って「ツライチ」で纏った。

よって、市販のジャケットに見られる「控え分」がない(通常のジャケットだと裏側の生地が見えないように1、2mm内側にずらしてある)。かなりの手間が掛かるが、ミシンの機械的な硬さとはかけ離れた独特の雰囲気がある。加えて、ぴったりと折り目が揃っているということは星止め(ステッチ)をギリギリの際で行えるという利点がある。手が切れるぐらいというと大袈裟だが、まさに剃刀のようなシャープな前端に仕上がった。

首に吸い付くように

みつ芯(後ろ身頃の衿付け部分の芯)は通常スレキという綿織物がバイアスで使われることが多い(とはいえ市場に出回っているジャケットのほとんどは接着芯)がこのジャケットでは毛芯を用いている。毛芯を使うことにより、比較的負荷がかかりやすい首回りをしっかりとホールドしてくれる。

そして、その毛芯を包み込むようにカラークロスを手で纏っていく。毛芯がバイアスで付いているので、それに合わせて動きの出るバイアスのカラークロスを合わせた。微妙な差かもしれない。しかし、首回りのフィット感が出る出ないでジャケットの重量の感じ方もかなり変わってくるから無視できないポイントだ。

最後にアイロンで首回りの形をイメージしながら形状記憶させていく(熱可塑性により)。

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唯一のアクセントとして

オニキス製のボタンを使用した。ジャケットがシンプルな分、瑪瑙(めのう)の艶が目立つ。初めは片側だけ付けてたのだが、それだと面白くないので両側に付けた。ウエストマーク的なアクセントとして視線を上に向かせる効果があり、脚が長く見える(たぶん)。オープンフロントを想定しているが一応ダブルブレストのジャケットに用いられることも多い「ひっぱり」を付けた。

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ポケットへの道しるべ

表にポケットが付いていないので、このジャケットにおけるポケットは2つの内ポケットだけということになる。とはいえジャケットのポケットを全て使っている人は稀だと思うし、表のポケットにものを入れるのはシルエットを崩すことから御法度である(スーツの場合)。それならなぜついているのかという疑問が湧くと思うが、完全に伝統という名の慣習だな。

今回はある意味で現代的な、スマートフォンさえ入ればOKというような使用方法を想定した。ジャケットがミニマルであるならば、生活スタイルもミニマルな人をイメージして作るのは必然である。

限りなく細い「お台場」

見返しは切り台場と言われる「お台場仕立て」の一種を用いている。お台場とは見返しを伸ばして表地にポケットを作る仕立てのことだ。裏地を跨いでポケットを作ると裏地の交換ができないので昔は裏地を交換することを前提とした高級な仕様だったそう。

今では裏地の強度も高いのでさほどありがたみは薄れているが、それでも手間がかかるのでオーダーメイドでもオプション価格が付くところも多い。こういったお台場を見慣れている方は、ポケットと裏地との隙間が非常に細幅だということに気付いたと思う。これは「裏地あとのせ」だからこそできることで、ミシンを使わずに手でまつり縫いしていくのでとても時間と手間が掛かる。それでも、細ければ細いほどエレガントさは増すと思うので必要な労力だと思い頑張った。

ポケットはもみ玉縁仕様である。お台場の細さに合わせて口幅が最も細いこの仕立て方を選んだ。松葉かんぬきを矢印のように刺繍している。

重力を利用したサイドベンツ

ベンツを入れるか迷うところではあったが、機能性を重視してサイドベンツにした。切り込みが入っていてもノーベントのように見えることが重要だ。ベンツの隙間からお尻が見えることほど見苦しいものはないからね。そこで、ベンツが開かないようにする工夫の1つがこのコインポケットである。額縁仕立てにして途中縫わないだけでできる。

ここにコインなどの重りを入れることでベンツがストンと落ちて、綺麗なシルエットを生み出すという寸法(あくまでも)。イメージとしてはシャネルジャケットのチェーンウェイトのような感じかな。簡単なように見えて星止めやかんぬきなど意外と手間が掛かるが、好きなディテールの1つ。

袖まわり、肩まわり

流れるような肩線

肩線を見ればと分かると思うが、大きく後ろ身頃に向かって振られてなだらかなカーブを描いている。この肩線には様々なラインがあり、作り手のジャケットに対するイメージ図が理解できるポイントの1つだと思う。現在流通するジャケットのほとんどは真っ直ぐ肩の上を縫い目が通るデザインが大半である。縫製に関してはそれが最も簡単な方法で量産にも向いている。しかし、昔の服(映画などで)を見れば顕著だが肩線が後ろに振れているものばかりだ。

肩線を後ろにすることのメリット
  • 後ろ肩線がバイアスになるのでいせを多く入れられる
  • 前肩線は水平に近くなることで歪みにくくなる
  • 肩甲骨に沿った縫い目によるダーツ効果
  • 前から見たときのシルエットが良くなる
  • 肩にかかる重量を分散させ、軽く感じさせる

どれも正しいと言えるし、正しくないとも言える。技術的には非常に難しいところであり正解はない。

肩線の縫い代を倒す方向について

袖には多めにいせを入れている。シワになっているのがその証拠だ。美意識の問題になるが、日本人はあまりシワを好まない。ところが南イタリアにはあえてこのシワをデザインポイントとして売り出しているサルトリア(テーラー)が多くある。一般的にはマニカ・カミーチャ(雨降り袖)と呼ばれているものだ。このシワを出すには袖の縫い代を身頃よりも大きめにするのは勿論だが、縫い代を倒す方向も関係している。

縫い代を倒す方向による変化
  • 縫い代を袖側に倒す→ふんわりとした「のせ袖
  • 縫い代を身頃側に倒す→シャツのような「雨降り袖
  • 縫い代を割る→段差がなくフラットな「割り袖

このジャケットは雨降り袖なので縫い代は身頃側に倒してある。前身頃だけ割って後ろ身頃は袖側に倒すといったパターンもあり、とても奥が深い分野だ。ここまでくれば「ハウススタイル」の問題になってくる。

どれが良いとは一概には言えないが、雨降り袖は肩パッドを省いた仕立てが多くそれゆえに軽い着心地が特徴だ。作り手からすると肩パッドを使ったほうが比較的簡単にシルエットを出るんだけどね。今回は毛芯を肩まで延長しているので肩周りの安定感は抜群。

生地について

幻の藤井毛織「AIR SHIP」

ヴィンテージ生地に興味がある方はご存知だと思うが、幻の藤井毛織の生地を使用した。これは秋冬用の生地で、藤井毛織の代表作と言える「AIR SHIP」という。「JAMES DRUMMOND」とコラボして作った「QUEENLAND VIVO」という当時では新しかったシリーズらしい。

生地の特徴

生地の色は黒。生地のデザインはストライプだが普通ではない。あまりにも複雑でそれがストライプに見えないくらい複雑なストライプになっている。生地の手触りはハリとコシを感じる。ヴィンテージ品だが特有の毛羽立つような感じは全くない。むしろその反対で滑りの良さがある。肉厚。

上記で「幻の藤井毛織」と書いたのはこの会社がもう何年も前に廃業しているからだ。当時は日本で最も高級な生地を作る会社として有名だった。

甲州織りの玉虫裏地

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今回もこの裏地を使用した。お気に入りだからね。上のリンクには売り切れてしまってないけど№413のカラーを使っている。富士山の湧き水で染め上げた先染めの甲州織で作られた裏地らしい。水の種類によって染め上がりに違いが出るのかは知らない。

素材
経糸シルパール(ポリエステル)
緯糸ベンベルグ(キュプラ)

経糸と緯糸で違う色が使われているので見る角度によって色が玉虫色に変わる。

キュプラの特性
  • 吸湿性に優れていて絹のような肌触り
  • なめらかで絹よりも摩擦係数がも低く、静電気が起きにくい
  • 繊維が柔らかく、ドレープ性があり服がしなやかに体に添う
  • 美しい光沢感があり、色が鮮やか
  • アイロン効果が優れているので、仕上がりがきれい
  • 絹とは違い虫に食われにくい

それに加え、強度のあるポリエステルを経糸に使うことにより十分な強度を保ってある。

イタリア柄の朱子織り袖裏

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上記の№1を使用している。白地に緑と赤のストライプでイタリアを連想させる。経糸と緯糸は共にキュプラが使われている。キュプラ素材を朱子織りにすることで光沢と肌触りが抜群によく、見栄えもいい山梨県産の織物である。袖裏は袖の裏地として用いられるだけでなく、毛芯を仕立てる際にも活躍する。

イタリア製の毛芯「ADAMELLO」

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ベースとなる毛芯にはイタリア製の「ADAMELLO」を使用した。国産の毛芯とは違う独特の風合いがあり、柔らかさの中にもしなやかでコシがある毛芯だ。

毛芯の繊維組成
  • ビスコース・レーヨン44%
  • ウール43%
  • 山羊の毛13%

毛芯の繊維組成は様々なものがあり興味深い。

馬の毛を利用したバス毛芯

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胸や肩にボリュームを出すために、毛芯よりもさらにハリのあるバス芯を使用した。

バス毛芯の繊維組成
  • 経糸:綿100%
  • 緯糸:ホースヘアー65%、綿35%

ホースヘアー(馬の毛)が用いられているのが特徴。これが針金のように固くしなる。結構な値段がするので高級な服でなければ使われないのが普通かと思う。

その他の副資材について

上記以外にもポケットの袋布や芯を作る際に使うスレキなどありますが詳しい説明は割愛する。

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フェルトは毛芯の胸の辺りに使う。


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ナナコ織りのポケット用袋布に使用。


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スレキは毛芯や縫い代に縫い付けるテープや芯として使える非常に使い勝手が良い生地である。

サイズについて

肩幅42cm
身幅49cm
着丈62cm
袖丈72cm

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